しにぎわ
TCT
某女子高生の和子は、追われていた。
後ろからは何者かが追ってくる。
和子は必死で逃げていた。
しかし、和子も疲れてくる。
しかも、走りにくい制服姿ときてる。
和子の疲れがたまってきたとき、和子は一つの洞窟を見つけた。
和子は迷わず、その中に逃げ込んでいった。
その選択肢が和子を滅ぼすとも知らずに・・・・・
和子は洞窟の中を走っていた。
なぜか、その洞窟の床には藁が敷いてあった。
しかし、その先は行き止まりだった。
和子は慌てて戻ろうとしたが、すでに入口では追っ手が待ちかまえていた。
そいつは手に、火炎放射器を持っていた。
和子はそのまま、あとじさっていった。
追っ手は和子を追わずに、足下の藁に火を付けた。
その火はじりじりと和子に迫ってくる。
和子はどんどん奥へとあとじさっていった。
しかし、火は容赦しない。
しかも、洞窟の入口では、追っ手が酸素を送っていた。
さらに、洞窟の床には藁がたくさん敷いてある。
そして、ついに和子は奥まで追いつめられた。
もう、洞窟は続いていない。和子はもう、逃げられない。
火を踏んでみるが、全く効果はない。絶望がわき上がっただけ。
和子は死を覚悟した。
−もう私は・・・・死ぬんだ・・・・・・・
火が近づいてきた。
今、和子の頭の中では、今までの思い出が、走馬灯のように走っていた。
その中に、泥遊びをしている、小さな和子がいた。
小さな和子は、泥で人形を作りながら、こんな事を言っている。
「あたし、おおきくなったら、おにんぎょうやさんになるの。」
小さな和子は、そんな無邪気な夢を抱いていた。今、こうして焼き殺されるのも知らずに・・・・
また、走馬灯の中には、中学生の和子がいた。
かずゆきくん宛ての手紙を持って、雨の中をじっと待っている和子。
夜までずっと待っていて、やっと渡した手紙の返事は"NO"
和子はその夜、風邪ひきベッドの中で、多くの涙を流した。
それが、短い人生で最初の失恋だった。
そして次の日から、かずゆきくんには目もくれなかった。
走馬灯の中には、ついさっきまでの和子がいた。
和子は友だちと、こんな約束をしている。
「明日、遊びに行くね。」
もう、この約束は果たせない・・・・
和子は、毎週見ている連続ドラマのことを考えていた。
面白くて、先が気になるドラマだったが、その続きを知る機会は、もうない。
和子は、はっと我に返った。
火が、つま先近くまで迫っている。
そして、ついに火は、つま先を焼きはじめた。
「熱い・・・・」
和子はただ、焼かれるしかなかった。
そして火は、和子のつま先から靴下を伝わって、脚の方へと燃え移っていった。
火は、和子のきれいな脚を、容赦なく焼いていった。
「ああ・・・、私は一体、何のために毎日、脚の手入れをしていたのだろう?」
そんな思いが、和子の頭をよぎる。
しかし炎は、無情にもその脚を焼いている。
「熱い・・・・あついよう・・・・・・」
火は、太ももにまで燃え上がっていく。
少しは速かった、この足。
和子は、それをも失おうとしていた。
そして火は、ついにスカートに燃え移った。
化学繊維で出来ているスカートは、簡単に燃えていく。
そして火は、腰部を焼いていった。
「ああ、私はもう、子供も産めない・・・・」
炎に焼かれながら和子は、好きな男の子のことを考える。
あこがれの主婦生活。その夢も燃えてしまった。
そして火は、制服を伝ってじりじりと燃え上がっていく。
和子はもう、体の半分を焼かれ、失っていった。
もう和子は、歩くこともできないし、子を産み育てることもできない。
洞窟のカベにもたれかかっているのが、やっとだった。
炎は、和子の胸部あたりに達した。
和子の魅力の一つが、また焼失しようとしている。
そして炎は、和子の腕にも燃え移った。
和子の、細い華奢な腕は、焼きただれていった。
「ああ、もうTVゲームはできない・・・・・」
やりかけのRPGのことが思い出される。
さらに炎は、和子の細い指をも焼いていく。
「私はもう・・・・何も書けない・・・・・・」
書きかけの小説のことが思い出される。
気が付くと炎は、和子の髪の毛に燃え移っていった。
きれいだった髪。
それも少しずつ、燃えていく。
そのとき、和子を燃やす炎が、急に勢いを増した。
それは、和子の顔をも包んだ。
和子の、かたちのいい、かわいらしい顔が焼けただれていく。
鼻は焼けただれ、唇も焼けていった。
「もう私は・・・・キスもできない・・・・・・」
なんのためにファーストキスをとっておいたのだろうか?
そして、和子のきれいな顔は、くずれていった。
女がその顔を失う悲しみは、とても言葉では表せない。
そして目の前が、真っ暗になっていく・・・・・・
「ああ、私って一体・・・・何のために生きてきたんだろう・・・・・・」
こんなところで死ぬために生まれてきたのだろうか?
「私・・・和子・・・・・一生をありがとう・・・・・・さようなら・・・・ばいばい・・・・・・・・・」
和子は自らに別れを告げると、焼け落ちていった。
殺人とは、悲しいものです・・・・・・
− 彼女の冥福を祈りつつ・・・ END −
(この小説の無断転載を禁止します。)