大混乱

TCT

 この物語は、フィクションであり、
 登場する人物、団体、事件等は現実のものとは一切関係ありません。

−1−

 八上 孝司、15歳。彼は、某高校の1年8組の生徒である。
 孝司は、見た目はふつうの高校生である。
 ただ、ある犯罪集団に属していた。

−2−

 6月のなかごろのある日、孝司は昼休みになるといつも通りに図書室へ行った。
 そこには、いつもの二人がいた。
「おっ、八上じゃないか。」
 7組の田中君が声をかけてきた。
「昨日はすごい雨やったなあ。」
「うん、そやなあ。もうすぐ梅雨やし・・・。」
 そこへ、本を探し終えた9組の松下君がやってきた。
「うちの近くなんか、ダンプカーが横転する事故があったで。」
 そこで、孝司は言った。
「そういえば事故で思い出したけど、この前の件、あれはうまくいったなあ。」
 すると松下君も、
あの件では、みんなうまい具合に寝てくれたからなあ・・・。」
 田中君も言う。
「またあんなことしたいなあ。」

−3−

 この3人はある犯罪集団を結成している。
 さっきの話に出てきた「この前の件」とか「あの件」とかいうのは、彼らが1ヶ月前に引き起こした事件のことである。
 孝司たちは、1ヶ月前に、淀川に大量の催眠薬を投入し、何人もの人を眠らせた。TVは、特別番組まで組んで騒いだものである。
 彼らは、事件を起こして街を混乱させるのが大好きなのだ。
 そして、6月5日。彼らは次の犯罪について、相談していた。

−4−

 田中君が言った。
「今度は地下鉄になんか散布しよう。」
 しかし、松下君は言う。
「いや、殺人はやばいで。」
 孝司も反対する。
「遺族ってもんが発生するからなあ。」
 田中君も再び悩む。そこへ、松下君が一案を出した。
「死ななかったらええねんな?」
 しかし、孝司には分からないようだ。
「えっ、どういうこと?」
 松下君は言った。
「大量の人の命を奪うことなく迷惑をかける。これでええんやろ?」
 孝司も、一応理解した。
「・・・うん、でもどうやって・・・・」
 すると松下君が説明する。
「電車の中でポケベルなんか鳴らされたら迷惑やろう?」
「うん・・・。」
「それと同じことをすればええねん。」
 それを聞いて田中君も反応した。
「そうか! わざとそれをやるんだな?」
「いやいや、それやったらバレる。やっぱ時限爆弾みたいにせな・・・。」
 孝司にもやっと分かった。
「タイマーを使うんやな。」

−5−

 彼らに費用はあった。
 早速彼らは怪しまれないように、それぞれ違う店でタイマーを、30個購入した。
一個100円。値段的にも手頃だ。
 ・・・そして、6月15日の月曜日、事件は始まった。

−6−

 N電鉄では、松下君があみ棚の上に、小さな箱に入ったタイマーを置いた。
 4分後には、この車両は大騒ぎになるだろう。
 そしてそれを各車両に、1分間隔でずらして設定し、3個しかけた。
 さすがに、サリン事件から2年も経つと警戒は薄れてくるので、怪しまれることも無い。しかも、大きさ自体が3×3×1の小さなものだったので、誰も気付かなかった。
 そして松下君は、次の駅で降りた。そして、向かいのホームに停車中の準急のカベにも、1個仕掛けた。タイマーにはマグネットがついているので、落ちない。
 また、田中君は、地下鉄のイスの下の部分に、マグネットでくっつけた。彼は、2つの路線を使っていたので、次のM線でも同じことをした。計4個くっつけた。
 その3分後、タイマーは鳴り出したが、田中君はもうその頃には、電車を降りていた。
 さらに孝司は、電車の中以外の場所にも仕掛けていた。
 駅のトイレに1個、駅のゴミ箱の中に2個、そしてK鉄線の車内・・・それも連結部に仕掛けた。それぞれ4分後に設定していたが、鳴り出す頃には、孝司は安全な車両に移動していた。
 そして、帰りにもやった。3人ともわざわざJR線を使って、3個を連結部に仕掛けた。

−7−

 そのことは、次の日の朝刊の、社会面の片隅に載っていた。

〜4電鉄でタイマー仕掛けられる!〜

 6月15日の朝7時から8時にかけて、N電鉄、K鉄線、地下鉄のM線とS線で、いきなりタイマーが鳴り出すとい
う事件が起こった。タイマーは普通のスーパー等で売っているものである。N電鉄では、いきなりあみ棚の上で鳴り
出し、5分後に気付かれ、止められた。タイマーは3個あり、これによって寝ている人が起きるなどの被害が出たほ
か、K鉄線では連結部で鳴り出し、警報と間違われて電車が一時停車するなどの被害が出た。また、地下鉄S線では、
タイマーの音によって運転手の気が散り、停車位置が大きくズレる等の被害が出た。
 また、JR線でも、夕方の6時頃に鳴り出した。各電鉄では、悪質ないたずらと見ている。

−8−

 次の日は、もっとひどかった。というのも、松下君は、タイマーを箱に入れ、その蓋が二度と開かないようにしたのである。
 そのため、タイマーは終点で回収されるまで鳴り続け、大勢の人が睡眠不足に陥った。
 田中君は、タイマーの裏側に両面テープを貼り付け、連結部の天井にくっつけた。そのため、鳴り出してから数分たつまで、止められなかった。
 孝司は、電車のイスの部分にくっつけた。わざわざ時間をずらしたので、昨日のことを知っている人も少ないはずである。

−9−

 その日の夕刊には、こんな記事が載っていた。昨日よりも大きめのスペースである。また、週刊誌にも載っていた。

〜タイ魔ー、現る!〜

 今朝8時頃、N電鉄、K鉄線、地下鉄M線とS線、そしてH電鉄で、いきなりタイマーが鳴り出すという事件
が起こった。昨日にも同様の事件が起こっており、各電鉄では警戒を強めている。なお、被害の状況は・・・・・

 H電鉄? そんな所には仕掛けなかったはずだ。3人とも縁の無い所に違いない。
 ・・・って事は、誰かがマネをしたのか?
 しかし、別に彼らは困らなかった。大混乱が好きな彼らにとっては、むしろたまらなかったに違いない。

−10−

 次の日には、マネをする人が一層増えた。この手のイタズラは、タイマーさえあれば簡単にできるので、さらにその次の日にも広まった。孝司たちは警戒が強まった頃をみて3日でやめたが、マネをする人はさらに増える一方であった。それは、TVがニュースで大きく取り上げたせいでもあった。
 これによって、耳センが飛ぶように売れた。なぜか、タイマーの売り上げも倍増した。
 そして、6日目になると、孝司たちも被害者になってしまった。いまや、どの電車の、どの車両に乗っても、タイマーの音が鳴り響いていた。N電鉄や地下鉄の各路線でも同様だった。また、これによって、孝司たちも耳センを買わされるハメになってしまった。
 いまや、電車を利用する人にとって、耳センは必需品だった。駅の売店にも置かれた。
 また、一週間がたった8日目には、さらに手口はひどくなっていった。
 改造タイマーというものが仕掛けられた。それは、一度鳴り出したが最後、電池が切れるまで止まらなかった。
 さらに、音量もすさまじいものが仕掛けられていった。
 また、民家にタイマーを投げ込む者も出てきた。
 首相官邸や皇居にタイマーが投げ込まれるという事件が起こり、各所では厳戒態勢が敷かれた。
 そして、タイマーを仕掛ける手口は、全国に広がった。
 アメリカでもマネをする者が現れた。中には、ポケベルを仕掛け、遠隔操作で何度も鳴らすというのも出てきた。また、カセットテープを仕掛け、車内で演説をするという手口もあった。
 このタイマー騒ぎは、2週間後の6月27日まで続いた。
 回収されたタイマーは、1000個を越えた。

END


戻る

ご注意:決してマネしないで下さい。