『バトル・ロワイヤル』 読書感想文
ご注意:この感想文は、ネタバレの恐れがあります。あらかじめご注意下さい。
☆作品DATA
作品名 | バトル・ロワイヤル |
作者名 | 高見 広春 |
出版元 | 太田出版 |
初版発行 | 1999年春 |
ジャンル | デス・ゲーム小説 |
あらすじ
七原
秋也属する香川県某高校の3年B組の一行は、バスに乗って修学旅行へ向かうはずだった。
しかし、そのバスは政府によって丸ごと拉致されてしまう。
そして拉致先の無人島で皆に言い渡された指令は‥‥‥
「今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす。」
ルールは簡単。クラス全員を殺して、生き残った者1人が勝ち。さながら椅子取りゲームのようなルールであった。
ここに、3年B組全体を巻き込んだ、壮絶なデス・バトルが、繰り広げられる!
背景
この小説は、俗に言う「問題小説」である。当初この作品は、そのあまりの残酷さゆえに、どこの出版社からも採用されなかったという、
いわくつきの作品であった。
しかし、この作品には、その残酷さを超える「モノ」が見いだされたので、1999年、太田出版より出版された。
全666ページ、新書版。定価1480円(税抜)、太田出版。
感想(各点数は、5点満点です。)
《背景設定:5点》
私は当初、この作品を知った際、2点ほど気になる点があった。その1つが、
「いくらなんでも『殺し合い』をさせるのだから、それにもっていくまでの『背景』が必要である。この作品では、そこのところを、どうしているのか?」
というものだった。
しかし、その設定は見事という他ないものであった。
太平洋戦争中の大東亜思想まで動員した、完璧なまでのSF世界が、その世界設定としてあったからである。
当然、思想的には問題があるが、とりあえず「小説の進行」のみを考えるなら、これほど見事な設定は無いであろう。
文句無しの5点満点であった。
《登場人物:4点》
そして、「気になる点」の2つ目が、これであった。
「登場人物は1クラス‥‥つまり42人いる。それだけの大人数を、どうやって動かすのか?」
しかし、そんな心配は不要であった。
たしかに「プロローグ」の説明は、全て覚えきれるようなものではなかったが、その後を読むにあたっては、その42人の登場人物に
戸惑わされるようなことは無かった。
‥‥というのも、もともと覚えるべき「主要な」登場人物は、ほんの数人‥‥
主人公の七原秋也、ヒロインの中川典子、地の文に何度か登場した、三村信史。そして、川田章吾(印象が濃い)に、
桐山和雄(やはりマシンガン効果で印象が強い)、そしてあとは‥‥別に名前を覚えていなくても良いような人物(失礼)のみであった。
「脇役(あえてこう書く)」が出る際には、きちんと「どんな人物か」が分かるように説明書きがあったし、名前も比較的覚えやすいから
助かった。
そして何よりも、この話では、各登場人物の特徴も様々である。
体育会系の人間、不良少年、不良少女、そしておとなしい子。他にも、機械系の人間、オタク、小心者‥‥など、様々な性格の生徒が
登場するのである。(特に、「電波系」少女、稲田瑞穂が登場したときは、びっくりした。)
そしてその描写も悪くない。特に「委員長グループ」の一件については、女の子の性格がよく出ていると思う。(偏見かもしれないが。)
ただ、ひとつ難を言うなら、桐山和雄については、設定が余計すぎた。それについては、次項で説明する。
《心情描写:3点》
心情の描写も、かなり良い。特に相馬光子や沼井充の描写については、面白いものがあった。
が、先ほども書いたように、桐山和雄の、「物理的な無感情」という設定は、余計すぎた。
本来、こういう小説は、悪役(この場合は、桐村)が1人1人仕留めていくときの心情が描写されていくものである。
それに、悪役はなんといっても、人間であるから面白い。
しかし、桐山和雄は、「殺人マシーン」であった。その行動に、人間らしさは見当たらない。
そう。悪役が無感情だと、その面白さが減少してしまうのである。
先ほども書いたが、悪役は人間だからこそ、面白い。しかし、悪役が機械では、面白くない。そういう事である。
あと、彼の行動についての説明不足も目立った。例えば、月岡彰が死んだとき、桐山がそれに気付いた動機など、
何の描写もなかった。また、「第2の悪役」ともいえる相馬光子が射殺される際にも、桐山側の描写は無かった。
彼に感情が無いから書けないのかもしれないが、ここの部分は、結構掘り下げて書いて欲しかった部分であった。
当然、書かなくてもこっち側には分かるのだが‥‥読み手の心理上の問題であろう。
《事実描写:4点》
地の文であるが、たいへん上手な描写である。事実を的確に示しているにも関わらず、エグさを100%感じる表現ではなく、
微妙なところにあって、かなり良い文章であった。
しかし、丸括弧を使った描写に、どこか「囁き」系の臭いがあったため、少し悪印象。もっとも、あの描写は僕も使わせてもらっているのだが‥‥
《結末:5点》
この終わり方は良かった。
こういう系の物語で、たいてい思い付くのが、「全滅」だとか、「1人だけ生き残る」とかいう物であった。
もっとも、逃げ出すという結末も考えはしたが、ここまで見事に逃げ出せるとは思わなかった。
この「2人で仲良く逃避行」というのは、使い古された結末ではあるが、いちばん無難で、良いものでもある。
もっとも、この物語を見ていると、全ては川田が居ないと、こうはうまくいかなかった、という印象があるのだが‥‥
あと、個人的に期待していたのが、「ウイルス中止」というパターン。
あいにく三村信史は死んでしまったが、彼の死後、(それも最後の最後で)坂持がパソコンをイラったところ、ウイルスでパソごと
吹っ飛んでしまって、3人が残ったところで試合は中止‥‥だとか、じつはそのウイルスによって、「政府」が少しダメージを受ける、とか。
当然、そんなチャチな結末なハズが無いのだが‥‥三村に少し惹かれたためであろうか。
《総合評価:5点》
このトンデモナイ設定、そして、42人もの登場人物をうまく動かすその技法、そして不快感を与えない結末‥‥
もう申し分ない。6点を付けても良いほどである。
先ほどは書き忘れたが、武器による「不確定要素」も、かなり面白さを増幅する設定となっている。
どんな意外な武器が出てくるか、そしてどんなスゴい武器が出てくるのか‥‥
ハズレ武器(フォークとかダーツセットだとか)については「うわぁ〜」と思う一方で、防弾チョッキまで登場したときは、
素直に感動した。この要素は非常に面白かった。
他にも色々書きたいことはあるが、今日はこの辺にしておこう。