私の恋の物語

                         TCT

 これは、2003年‥‥私がとある専門学校に通っていたとき、経験した恋の一部始終です。
 あまりにも、物語として成立してしまっているので、章分けして、サイトに載せることにしました。
 
 こうやって文章にまとめれば、早く忘れることができるんじゃないか。そんな期待とともに‥‥


第1章:黒いズボンの女の子

 就職活動に失敗し、将来のことで相当思い悩んでいたある日、私は親に、専門学校へ通うことを強く勧められました。
 専門学校なら、就職も斡旋してくれるし、資格もたくさん取れるから、通いなさいと。
 
 そして4月2日。私は、とある専門学校に入学し、簿記を勉強することとなりました。
 
 
 
 最初のうちは、簿記の授業も順調で、普通だけど一癖も二癖もありそうな友人も何人かできて、私は、
「簿記」と「人付き合い」という、どちらも就職するためには相当大事なことを、学び続けていました。
 
 そう、ゴールデンウィークが明けるまでは。
 
 
 
 ゴールデンウィークに入る少し前に、クラスの中で席替えがありました。
 それまで私は、一番前の席に陣取っていたのですが、この運命的な席替えによって、私は後ろの方の、左寄りの席‥‥
 あの子がよく見える席へと移動することになります。
 
 
 最初は、とても不純な動機でした。
 
 私の通っている学校では、授業が始まる前に、「起立。礼、着席。」をキチンと行わなければならないのですが、
 「起立」で席を立つとき、私はふとあるものが目に入ってしまいました。
 
 お尻。
 
 我ながらすごく情けないきっかけです。
 席を立つとき、どうしても前かがみの姿勢になってしまうわけですが、その時お尻を突き出す格好となり、情けなくも私は、
 その姿に萌えてしまったのです。
 
 
 その時から、私は左の方をよく見るようになりました。
 黒板は右の方にあるのに、号令の時は左を見るようになっていました。
 
 そして授業中に何度か左を見ていて‥‥‥私は、その子が、いつも同じ格好しかしてこないことに気付きました。
 
 ズボンは、いつも黒いズボンです。
 そして、上半身は、いつも白いブラウス。
 
 たまに黒いブラウスのこともありますが、たいてい白です。
 そう、今どきの女の子の格好とは、明らかにかけ離れています。
 
 
 
 そして、少しずつ、気になり始めてきました。
 
 何度もあの子のことを観察するようになりました。
 そして私は、そのうち、あの子と私に、共通点があることに気付きました。
 
 
 私は、けっこうせっかちな人間で、行動もクイックです。
 歩くスピードも普通の人の2・3倍ぐらいの速さですし、物を拾ったりする動作も、相当速いです。
 
 あの子も、そうでした。
 歩くのはすごく速いし、動作もけっこう速めだし。
 
 私は、話をするときに結構テンパって慌てるタイプの人間ですが、
 あの子もそうでした。
 
 
 そこまで共通点を得れば、もう、好きになるのに時間はかかりませんでした。
 あの子と仲良くなって、あの子のことをもっと知りたい。そう思うようになりました。
 
 決して綺麗な子ではありませんでしたが、私にそんな事は気になりません。
 それに、笑顔がとっても可愛かったので、もう、それだけで大満足です。
 
 
 しかし、その子と仲良くなるにはいくつかの壁を超えなければなりませんでした。
 
 話しかけようにも、もう、時期は5月。いきなり話しかけるには、ちょっと不自然な時期です。
 その子の唯一の友達、Aさんを通じて話しかけるという手段も決行しましたが、あまりにも不自然すぎて、
 逆にAさんと気まずくなってしまいました。
 
 その子の隣には、男の子がいるのですが、その人は、見た感じは私と似たようなタイプの男です。
 もしも彼が、私と趣味が合う人間だとしたら、その男がその子を意識するのは時間の問題でしょう。
 しかも、その男、実際にあの子と仲が良いのです。
 
 そう、私はその男に、「嫉妬」していました。
 なんとかして、この男よりも先に、あの子と仲良くならなければ。その気持ちは、私を焦らせました。
 
 
 そして、何よりも大きな壁があって、それがさらに私を焦らせました。
 
 タイムリミット。
 簿記検定は、6月8日。そして簿記検定が終わると、簿記のクラスは解散となり、みんなバラバラになってしまうのです。
 
 それは、あまりにも強力な壁でした。おそらく、この恋の中で一番の障害は、この切迫した時間だったと思います。
 その時、すでにカレンダーは5月20日を切っていました。
 
 あの子に会えなくなるまで、あと3週間。
 私はそのわずか3週間で、あの子と話ができるほどの関係になり、そして、検定の翌日の登校日に告白する。
 そんなシナリオを組まなければなりませんでした。

人物相関図
 

第2章:時間がない。

 それからの私は、とにかく必死でした。
 
 半ば強引に、Aさんと仲の良いS君に近づき、そこからAさんを通じて、あの子に話しかけようという作戦も組みました。
 Aさんとあの子が、S君に勉強を教えてもらっている時がチャンスです。
 そして私は、その輪の中に入ることに一度だけ成功し、そして、見事、あの子に勉強を教えることができました。
  
 しかし、同じ手は2度も使えません。
 それに、私とS君は、毎日話しかけるほど仲が良いわけではありません。
 
 しかも、その時から、なぜか私はAさんから距離を置かれているような気がして、どうしようもなくなってきました。
 
 
 その子の、隣の席の男と仲良くなることも試みました。
 しかし、話が続きません。
 
 
 でも、どうしようかと悩んでいたある日、私は、あの子に話しかける絶好の状況を見つけました。
 
 それは、朝。
 
 
 朝なら、教室に人も少ないですし、邪魔な隣の席の男もいません。
 そして5月30日金曜日、私は話題を綿密に考え、ついにあの子に話しかけてみました。
 
 
 あっさり、話せました。
 それも、笑顔で話に乗ってきてくれるのです。
 
 とっても嬉しかったです。
 そして、その姿が、とっても可愛かったです。
 
 問題は、あまりにも私が緊張しすぎていて、一方的な会話になっていたかもしれない事です。(汗)
 
 実際、私はどちらかといえば無口な人間です。
 話も、あんまり得意ではありません。
 
 ここまで話ができる人間になれたのも、大学の時のサークルとバイトのお陰なのですが、それでも、まだ一人前に
 会話ができるわけではありません。
 
 でも、そんな私でも、話せました。
 てゆうか、思っていたとおり、波長が合いました。
 
 すごく話がはずむんです。
 私は吃音症なので、緊張すると相当滑舌が悪くなるのですが、あの子と話すときだけは、一度もどもりませんでした。
 どう考えてもその子は、私と波長の合う子でした。 
 
 
 
 それから私は、最低でも1日1回は、あの子に話しかけるようにしました。
 
 あの子が眠そうにしていたので、FRISKをプレゼントしてみたこともありました。
 教習所の話で盛り上がったこともありました。
 
 でも、休み時間は限られているわけで。
 そして、あの子と話をするたびに、「あの時は、ああいう風に話を返せば良かった」などと、真剣に悩んだり。
 
 その頃には、私の恋の悩みは、相当なものになっていました。
 隣の席の男への嫉妬も日ごとに激しくなってきましたし、あの子が授業中に寝ていると、とにかく起こしてあげたくて
 仕方がありませんでした。
 
 話をしたい一心で、話題もないのに話しかけたりもしてみました。
 それでも、ある程度は話が続きますし、あの子はほんとに嬉しそうな顔をしてくれるのです。
 
 幸せでした。
 そして、もしかしてこの子、ほんとはクラスの人に話しかけて欲しくて、うずうずしていたんじゃないか、と思うように
 なってきました。
 
 
 でも、やっぱり不安というものはあるわけで。
 その頃には、もう一日に2・3回は話しかけていたので、もしかしたらウザがられているんじゃないか、
 そう思うようになってきました。
 
 それに、やっと話ができる関係になれたとはいえ、もう時は6月5日の木曜日でした。
 簿記検定まで、あと3日です。
 
 そして、私は思いきって、一大決心をしました。
 
 簿記検定の後、一週間のお休みがあるわけですが、その時に、映画にでも誘ってみようと思い立ったわけです。
 ちょうど、その時はうまい具合に、マトリックス・リローデッドが話題になっている時でした。
 
 時期は万全です。
 そして、あの子が定期券で行けそうな映画館も探し出しました。
 その後のデートコースや、映画館までのルートも、きちんと調べました。
 
 そして、6月7日、土曜日の朝。思い切って誘ってみました。
 
 もう、打つ手は全て打ちました。
 できる限り、心は配ったつもりですし、どんなに調子の悪いときでも、最低、1日1回は話しかけました。
 あの子の友達のAさんにも、協力していただきました。
 話をするときも、(たいていうまくいきませんでしたが、)できるだけあの子に話の主導権をあげるようにしました。
 
 なので、もしも、断られても、悔いは残らない。そう思っていました。
 万が一断られたら、私は結局その程度の人間だったということです。
 てゆうか、絶対大丈夫。そんな自信まで持っていました。実際、おそらく「友達」として認識されているのなら、
 大丈夫なハズでした。 
 
 しかし、結果はあまりにも、残酷なものでした。

第3章:いそがしい

「ごめん‥‥‥その日はバイトが入ってて‥‥‥」
 
 一瞬、私は「えっ?」と思いました。
 夜遅くまで簿記、という忙しい生活なのに、バイト?
 
 それに、テスト休みは1週間もあるはずです。まさか、1週間全部がバイトで埋まっているわけはないハズです。
 
 しかし、あの子の返答は、こうでした。
 
「だいぶ無理言って一ヶ月もバイト休んでたから‥‥‥その分、1週間全部入らないと‥‥‥
 シフトとかも、まだ2・3日前ぐらいにならんと分からへんし‥‥‥」
 
 
 その時、私は、もしかしてこれは嘘で、じつは遠回しに断られているんじゃないかと思いました。
 しかし、その後、あの子の友達のAさんに確認してみると、なんとそれは本当の事だったのです。
 
 なんでも、あの子、学費を自分で払っているらしくて、本当にバイトしないと、もたないとか。
 しかも真面目な子なので、バイトを1ヶ月休んだ分、ちゃんと一週間、全部フルタイムで入るつもりだそうです。 
 
 さらにその後、あの子に聞いた話によると、学費は全て自分持ちなのに、まだ全然貯まっていないとか。
 
 そう、実は、状況は最悪でした。
 
 あの子に、ヒマな日などないのです。
 デートなんて、もってのほかです。
 
 
 
 そして、さらに私の前に、大きな壁が立ちはだかってきました。
 Aさんに聞いたところによると、あの子、相当人見知りが激しい子らしいのです。
 
 高校も女子校で、男の子とかそういうのも、ほんとに苦手で、
 クラスの他の女の子にさえ、「外見がちょっと‥‥」という理由で話しかけることができなくて。
 いきなり男の子に映画に誘われたりして、ほんとにどうしたらいいか分からない。そう言っていたそうです。
 
 
 それでも私は、その子と付き合おうと決心しました。
 人見知りなのは、私もそうです。
 それに、忙しいとはいっても‥‥‥バイトが休みの日ぐらいは、あるでしょう。
 また、メールという、文明の利器もあります。
 
 
 その次の検定の日、私は、その子に、メール友達からでいいから、付き合って欲しいと言うつもりでした。
 
 
 でも、結局、あの子が駅のホームで待っているところを捕まえることしかできなくて、しかも、その時、
 ついに私は気持ちを伝えることができませんでした。
 
 得られたものは、あの子のメールアドレスだけ。
 それだけでした。
 

第4章:メールだけの、長すぎた1週間

 そして、私とあの子との、メール文通が始まりました。
 しかし、それは、地獄のような1週間の始まりでした。
 
 メールが、続きません。
 
 話すときは、あんなに話が盛り上がって楽しかったのに、
 メールだと全然です。
 
 しかも、あの子、メールの習慣がないらしくて、出したメールも全然返ってきません。
 
 出したメールに気付かれずに、放置されたこともありました。
 
 そして‥‥‥しだいに、メールのネタもなくなってきました。
「今日は暑かったなぁ〜そっちはどんな感じ?」というメールを送ったところ、「全然暑くなかったよ。」
 というメールが返ってきて、本当にヘコんだ事もありました。
 
 毎日出すとウザがられるかな、とか思って、辛いけどメールを出さなかったこともありました。
 メールをしたくても、ネタが思い付かず、送れなかったこともありました。
 
 
 そして1週間が経ち、クラス替えの直前、顔を合わせたときには‥‥気まずくなっていました。
「また今度、お昼でも食べに行こうや。」と声を掛けても、逃げるように去られました。
 
 さらに、その日出したメールは、無視されて返ってきませんでした。
 
 ‥‥困り果ててAさんに相談したところ、やっぱりネックになっているのは、あの子の男嫌いでした。
 あの子、
男に対して、ものすごい警戒心があるそうです。
 
 そして、悩んだ挙げ句、ちゃんとメールで真剣な話をしてみよう、そう思って、真剣なメールを送ることにしました。
 ちゃんと、伝えたい気持ちも整理して、どうにかして話をするつもりでした。
 
 
 しかし、その時はすでに、遅すぎました。
 
 メールを出して1秒後、誰かからメールが送られてきたのです。
 
 そのメールは、宛先不明のエラーメールでした。
 
 そう、あまりにも私のメールを恐れていたあの子は、ついにメールアドレスを変えてしまったのです。
 しかも、後から知った話では、それはメールアドレスを変えたのではなく、携帯ごと買い換えたという事でした。
 
 私が電話してくるのを恐れて、電話番号まで変えてしまったのです。
 
 いや、携帯水没とか、そういう理由も考えられますが、どちらにしろ、私にとって良い話ではありませんでした。
 
 そして次の日、Aさんを通じて、どうにか「話がしたい」と伝えてもらいましたが、
 こちらが口を開く前にAさん経由で送られてきたメールは、こんな文面でした。

第5章:失恋

「ごめんなさい。TCTくんのことは、そういうふうには見れないです本当にごめんなさい。」 
 
 短いメールでした。
 どこが駄目だったとか、そういう事は一切なしで、「ごめんなさい。」
 
 しかも、まだ、僕の気持ちも伝えていないというのに。
 
 
 ‥‥終わりました。
 
 ただ、伝えきれずに心の中に残っている気持ちだけを置き去りにして、あの子は逃げ去ってしまいました。
 
「男の人が苦手」と聞いた時点で、もっと気をつかうべきでした。
 思っていた以上に、あの子は男に対して、心を閉ざしていたのです。
 
 もう、あの子は僕と顔を合わせることさえ、拒否していました。
 やっぱり、毎日メールを送り続けたのが、良くなかったのかもしれません。
 
 その夜、Aさんとメールしたところ、
 もう、僕がどんなに頑張っても、今のあの子には、それは伝わらない。そう返ってきました。
 
 とりあえず、代わりにその気持ちをAさんに聞いてもらって、気を紛らわせましたが、
 失恋したという事実に、変わりはありません。
 
 
 もう少し時間があれば、こんな事にはならなかったかもしれません。
 でも、時間がなかったからこそ、ここまで行動に出れた、という解釈もできるわけで。
 
 結局、この恋に終止符を打ったもの。それは、僕の必死なメールと、あの子の男性恐怖症でした。
 
 こんな結末、5月には全然予想していませんでした。
 でも、後になるほど、障害がごろごろと転がってきて。
 
 思ってみれば、険しすぎる恋でした。
 でも、最高の相手でした。
 
 
 そして、私があの子に夢中になった分、その反動が、今、私に重くのしかかってきています。
 
 失恋の傷。
 
 ほんとに、もうこれ以上の相手はいない。そこまで考えていましたから。
 しかも、将来のビジョンまで明確に打ち出していましたから。
 
 ショックはほんとに、大きすぎました。
 
 そして、現在に至っているわけです。
 
 
  
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 表の日記では、ほんとにひた隠しにしていましたが、
 もう、終わってしまいましたし、早く忘れるためにも、この恋の一部始終を公開することにしました。
 
 
 思えば、最初から、よくできた恋物語でした。
 タイムリミットという大きな障害がある上に、ご丁寧にライバルまで登場して。
 
 幸せなひとときを経て、いざ付き合おうとしてみたら、次々と判明していくあの子の性格。
 
 そして、結局、それでうまくいかずに、恋が終わってしまって。
 主人公は、失恋の傷を早く忘れようと、必死に明るく振る舞っているわけです。
 
 これがほんとの恋愛ドラマなら、「数ヶ月後」というテロップと共に何かが起こり、再び‥‥‥なんてシナリオが
 あるかもしれませんが、あいにく、そんなストーリーは保証されていません。
 
 
 
 まあ、こんな恋物語が実際にあったということで、ネットという、誰でも読める場所に公開して、多くの人に読んでいただこうと
 思った次第です。
 
 ほんとに、ご読了、ありがとうございました。m(_ _)m
 それでは。

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2003年6月20日(金)
22時15分 TCT

 
※ 追記(2004/01/22)
 
 彼女、病院に就職したそうです。
 ‥‥おそらく、よほどの事がない限り会うことはないでしょう。
 
 どうやら、この物語は完全に終わりを迎えてしまったようです。
 
 ‥‥彼女のこれからのご活躍と幸せを祈りつつ、私自身の幸せも祈りながら、
 筆を置かせていただきます。


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